伊藤 廉

伊藤廉 「窓に倚る女」 1929年 油彩 92.3X73.4cm

伊藤 廉 (いとう れん)という画家の模写です。実物もほぼF30号に近い大きさ。
画家が滞欧中の昭和4年31歳のときの作。

伊藤廉の絵はたっぷりの絵具を使った厚塗りの重厚な絵肌がとても触感的で、筆跡が独特のリズムとスピード感を提示してくれています。
この絵に関しても、風化した感じの、時間さえも塗り込められたかのような絵具層はとても厚く、右上からの強い日差しの中から浮かび上がった女性の圧倒的な存在感と、重厚な石壁のマティエールはとても魅力的です。
部分的に見ると手の描写がやや弱い感じもしますが、手というのはそれだけで表情があり、あまり描き込むと主張しすぎるのでこの程度で良いのかもしれません。その辺はやはりセザンヌの影響を受けた画家の造形理論でしょうか。
顔に関してもその凹凸がわかる程度の色面だけで描かれ、虚脱感というか虚無感のようなものさえも感じられます。シンプルなゆえに女性の内面の深い部分が表現されている絵です。

模写にあたっては古い美術雑誌の切り抜きを元にしたのですが、印刷があまり良いものではなかったのでバックの暗部がつぶれてしまって実際のマティエールがわからない点が残念でした。こればかりは実物の絵を観てみるしかありません。(細かい描写の絵ではないので、恐らくは黒あるいは濃い褐色のほぼベタ塗りに近い色面だと思いますが。 )
絵具層や筆跡もオリジナルよりは大人しめで、古典的な樹脂を多めにした描画にしてみました。

古い絵の模写全般に言えると思いますが、経過年数とともに絵の表面が汚れたり、ニスの落ち着きとともに褐色がかってくるので、それなりの重み・渋みも増してきて雰囲気が出てきますが、厳密に言えば完成直後の色彩からはどんどん遠ざかってきているということにもなります。
絵が物質である以上年月による変化は避けられない現象なのでしょうがないですが、鑑賞する際のイマジネーションの要素になっていることもまた事実でしょう。
そこから無限の想像力が働いて、よりいっそう絵画を豊かなものに高めてくれるという意味で。

***

伊藤廉

1898年(明治31年)名古屋市に生まれる

画業の他に、東京芸術大学教授や愛知県立芸術大学教授として指導にあたり、教育者としていくつかの著書も残している。

1983年(昭和58年)没